医療機関インタビュー

近森病院 ~チーム医療とタスク・シフティングの取組み~

院長・理事長 近森 正幸氏

所在地 高知県高知市
病床数 512床
主たる医療機能 急性期
職員数 1,319人(医師125人、看護師546人)

インタビュー記事


院長・理事長 近森 正幸氏

近森病院は高知市の中心部に位置し、急性期医療を中心とした地域に真に求められる医療の提供を目指し、地域医療連携に力を入れた医療を行っている。

その中で近森正幸院長・理事長が行った、タスク・シフティングによって医師、看護師の負担を軽減しながら専門性を最大限発揮する仕組みづくりについて、ご本人に話を聞いた。

-貴院のタスク・シフティングの仕組みについて教えてください

近森 当院では膨大な業務を高い質で効率的に処理するために、薬剤師、リハスタッフ、管理栄養士、臨床工学技士、医療ソーシャルワーカー(MSW)をはじめとする医療専門職を全病棟に配置し、「病棟常駐型チーム医療」でタスク・シフティングを行っている。医師、看護師はプロフェッショナル業務(図1・ピンク色)を行い、医療専門職(図1・オレンジ色)に医師、看護師の業務で標準化出来るルーチン業務をシフトしている。
 薬剤業務は薬剤師、リハビリはリハスタッフ、栄養サポートは管理栄養士、人工心肺やIABP、人工呼吸、透析などの機械に関する業務は臨床工学技士、転院はMSWというように、医師、看護師は周辺業務を多職種に委譲し、マネジメント業務に専念する。多職種はルーチン業務で膨大な業務を安全・確実に行い、医師、看護師を支えている。これらを支える仕組みがフレームという概念である。患者は入院すると、個々の患者に合ったフレームに乗って、必要とするサービスを受けて退院する。

図1 近森病院のタスク・シフティング体制を表す「病棟常駐型チーム医療」の概念図

近森 ERや外来、手術室、心カテ室、内視鏡センターなどでも医師、看護師の業務の代替を多職種が行い、必要なタスク・シフティングを行っている。
 多くの病院ではチーム医療に対し求めていることは「加算を取る」であり、スタッフが少ない中で苦労しながら対応している。各部署で業務を行っているスタッフが、病棟に週1回集まって医師を中心にカンファレンスを行っているが、看護師、理学療法士、栄養士など多職種が時間をかけてすり合わせをして情報共有するので莫大なコストがかかってしまう。少数のスタッフでは処理能力が限られており、リスクの高い限られた患者にしか対応できない。そのため多くのサポートが必要な患者にリアルタイムに医療を提供できず、アウトカムが出ない。これはチーム医療の理論からすると間違っている。
 一方当院では「アウトカム(成果)を出す」を第一としてチーム医療を実施している。一人の人間が出来る業務には質・量ともに限りがある。ルーチン業務をタスク・シフティングして多職種が行うことで、膨大な業務を安全確実に行うとともに、多職種の労働環境の改善とイキイキ働くやりがいを高めている。

図2 近森病院のチーム医療の考え方
<業務の種類で分ける>
標準化された業務 :ルーチン業務で多職種が膨大な業務を安全確実に行うことができる
標準化できない業務:非ルーチン業務で主に医師、看護師が行う、常にplan do seeが必要な業務
<業務の種類で分ける>
リスクの高い患者 :質の高いチーム医療で対応、カンファレンスですり合わせして暗黙知を情報共有(もたれ合い型チーム医療)
リスクの低い患者 :効率的なチーム医療で対応、一言、二言の情報交換や電子カルテにのせて形式知を情報共有(レゴ型チーム医療)

-近森式チーム医療の具体例を教えてください

近森 当院の褥瘡対策で例えていうと、リスクの低い患者には担当の看護師がチェック表でチェックした結果で、マットレスやエアマットを使用する。褥瘡のチェック表は紙カルテに入れるか電子カルテにスキャンすることで、情報共有することができるので、これなら時間もコストもかからない。こうした簡単なチーム医療で褥瘡の発生率は3%以下になり、その褥瘡も発赤やビラン程度になる。チェック表でチェックするというのは、標準化された業務といえる。標準化された業務というのは文字でわかる知識、形式知であって、チェックの数でエアマットを入れるというように、形式知を通して対応可能であり、簡単に情報共有できる。
 これに対してハイリスクの褥瘡対策になると、状況を文字で把握するのが難しい暗黙知になるので、外科医や褥瘡専門看護師、理学療法士、栄養士などが皆でラウンドし、個々の患者の特性を判断し、カンファレンスですり合わせして時間とコストをかけて情報共有している。
 また、病棟ごとに医療専門職が常駐していることで、気になったことはその場で互いに報告し、自然と多職種間で患者情報が共有できるようになり、リアルタイムで患者に介入することができる。
 このように、リスクの低い患者には効率的なチーム医療、ハイリスクの患者には質の高いチーム医療が必要となる。

-近森式チーム医療に至ったきっかけを教えてください

近森 高知県は高齢化が進んでいる課題先進県で、高齢患者の特徴である低栄養と廃用に対応するために、1989年に近森リハビリテーション病院を開設しリハビリを始めた。ある程度リハスタッフを養成してから、近森病院でも充実したリハ体制を作ることが出来た。ただ、リハビリをするとカロリーの消費が増え、栄養を考えないとダイエット病棟のようになってしまうので、栄養サポートをしなければと感じたのがきっかけである。チーム医療を実践している病院ということで、2002年に日本の管理栄養士の第一人者といえる宮澤氏に来てもらい、4~5人の栄養士と夜の10時、11時まで栄養サポートを行った。最初はなかなかアウトカムが出なかったが、2006年の夏、病院横の小川にかかっている橋の上で「入院患者の半数に栄養サポートが必要であり、業務量が膨大なのに、4人、5人の栄養士でできるはずがない。だったら栄養士を増やせばいいだけではないか」と突然閃いた。この閃きから誕生したのが、栄養サポートチーム(NST)である。加算を取るチーム医療から、アウトカムを出す病棟常駐型チーム医療への転換のはじまりであった。

-栄養サポートチームの取組みと成果を教えてください

近森 入院患者の半数に栄養サポートが必要なため、病棟常駐型レゴ型チーム医療が主体である。病棟に常駐している栄養士は聴診器を持って病棟をラウンドし、低栄養患者すべてに対応している。栄養士は栄養学的に栄養評価を行い、プランを作成し医師に上申する。医師は栄養士が作成したプランを承認して指示を出し、栄養士は看護師、薬剤師と共に栄養サポートを行う。栄養士は栄養評価からプランの作成までを標準化し、ルーチン業務として迅速・確実に行っている。一方、個々の患者の個別性に応じて対応することで、栄養学的な個別介入も行っている。少数のリスクの高い低栄養患者に対しては、週1回、医師を中心に看護師、薬剤師、リハスタッフ、臨床検査技師、栄養士が集まってカンファレンス、ラウンドですり合わせをして情報共有する質の高いもたれ合い型のチーム医療で対応している。
 栄養に関しては栄養士が主役で、栄養士の視点で患者を診られるということで、若くてやる気のある栄養士が集まって来た。また、医師、看護師業務の代替を任せられ、皆やりがいを持ってイキイキと働いている。医師にとっても、必要に応じて栄養士が情報提供や提案をしてくれるので、栄養に関して悩むことがなくなり楽になる。
 チーム医療で必要な患者すべてに栄養サポートをすると、まず食事が増え、包括医療費支払い制度(DPC)の出来高部分が上がって売上が増える。また、食事が増えると明らかに点滴が減る。栄養が良くなると免疫も高まるため、抗生剤も減る。すると点滴や抗生剤が減ってDPCの包括評価部分のコストが下がる。現在急性期452床で22名の管理栄養士を雇っているが、売上が上がってコストが下がれば、その差額で充分人件費をペイするチーム医療になる。栄養士が4~5名で栄養サポートしていた時代はアウトカムが出せず赤字だった。多くの栄養士を雇っても必要な業務を全うすることでアウトカムが出て、黒字のチーム医療になる。

-近森式チーム医療に至ったきっかけと経緯を教えてください

○量から質への転換 -機能の絞り込み-

近森 私が院長・理事長になったのは34年前の昭和の終わりで、地域医療計画が施行され、ベッドの多い高知県では増床ができなかった。そこで経営方針を変えざるをえなくなり、量から質への転換のため、医療機能を絞り込むことで医療の質を向上させることにした。1989年に近森リハビリテーション病院を開設したが、当時は看護料も低く、看護師の業務量を下げるため急性期も回復期も慢性期も全部一般病棟でみていた。そこで、慢性期の患者はすべて転院してもらい、急性期病院と回復期リハビリテーションの病院に分けることで、近森病院では急性期に医療機能が絞り込まれ、医療の質・生産性ともに向上するようになった。医療機能を絞り込んでいくと足りない機能が出てくるが、それを補うのが地域医療連携だと考えている。

○病院の機能の絞り込みと地域医療連携

近森 地域医療連携の一環として20数年前から逆紹介を推進し、4年間で外来患者数は1万5千人が1万人と3分の2に減少した。単純に考えると外来患者数が減れば売上も減ってしまうと思われるが、重症の救急や紹介、専門外来の患者が増え、種々の検査や治療が必要になるので単価は1.5倍になり、逆紹介して外来患者数は減っても売上は減ることがなかった。これが病院機能の絞り込みによる質の向上と生産性の向上である。

○病棟の機能の絞り込みと病棟連携

近森 地域医療連携で実践した「かかりつけ医との連携」を、近森病院の病棟間でも行うことにした。重症病棟をつくって、医療が高度で手間のかかる高齢患者を集め、根本治療を行い、落ち着いたら一般病棟に移すという病棟連携を始めた。もともと当院は、私の父の代・1960年代にはいわゆる院内ICUで人工呼吸などの重症患者を集めていたので、病棟の機能の絞り込みは以前から行っていた。現在、病床コントロール師長に権限を委譲し、スムーズな転棟を行っている。

○スタッフの機能の絞り込みとチーム医療

近森 病院と病棟の機能を絞り込みに続いて、スタッフ機能の絞り込みを行った。医師は医師にしかできない業務を、看護師は看護師にしかできない業務をする、というようにコア業務に絞り込むことにした。各職種の機能を絞りこみ、スタッフ間で連携を取ることがチーム医療であり、それによって質や生産性が上がると考えている。

-タスク・シフティングの成果とその要因を教えてください

近森 地域医療連携で落ち着いた外来患者をかかりつけ医にお願いすることで、救急、紹介、専門外来と入院医療に医師が充分対応できるようになった。病棟連携で手間のかかる高齢重症患者を看護師の多い重症病棟で診て、一般病棟の看護師の労働環境を改善するとともに、病棟常駐型チーム医療を組み合わせることで、重症病棟、一般病棟でも看護の標準化出来る周辺業務を医療専門職にタスク・シフティングすることができている。
 一方で、アウトカムを出すためには、医師ばかりでなく看護師や薬剤師、栄養士、リハスタッフなどの多職種もそれぞれの専門性が高くなければならない。専門性を高くするためには、医師と同様に判断と介入を繰り返し、暗黙知を蓄積することが必要になる。薬剤師、栄養士、リハスタッフにしても、それぞれの視点で患者を診て、薬学的・栄養学的・リハ学的に判断(自律)し、介入(自働)する、「自律、自働」することが大切である。
 それぞれの職種が専門性を高めることで、効率的なチーム医療の質が上がり、効率的で質の高い理想の高度レゴ型チーム医療を展開することができる。
 必要な患者すべてにリアルタイムに適切な業務を行うことで医療の質と生産性が上がり、患者数と単価が増え、売り上げが上がり、多くのスタッフを雇う原資が出る。また、経営数値を圧迫することなく、業務量に応じたスタッフ数の適正化を実現すること自体が、勤務負担軽減の有力な解決方法であり、スタッフに安心して働いてもらうことが、雇用の質の向上に繋がる。これがスタッフを増やし、医療の質を上げ、いい病院となり、黒字経営が可能となる考え方である。ある意味チーム医療は最も難しいマネジメントであり、トップの才能と経験、現場の実践力が求められる。

-今後の課題を教えてください

近森 組織というのは油断すると常に陳腐化してしまう。病院は実際に医療を行っている若いスタッフを中心に運営すべきと考えており、スタッフの若返りが課題である。また、診療報酬がストラクチャー評価からアウトカム評価に変わり、日本の医療は大きく変わろうとしている。この数年で、右肩上がりの時代から右肩下がりの時代に大きく転換しており、この状況を打開するには、今までの発想にとらわれない自己変革をするしかないだろうと考えている。「いつまでも年功序列で給与は上がっていくもんだ」、「祝日は休むもんだ」などという今までの医療界の発想ではやっていけない。これからはキャッシュフローを重視する病院経営にシフトし、売上を上げて、質を担保しながら、無理・無駄・ムラを徹底してなくしてコストを下げるという、今までとは違う、非常に難しい舵取りが求められている。常に自己変革できる病院のみが生き残れると信じている。

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