医療機関インタビュー

吉成医院 ~有床診療所全職員のワーク・ライフ・バランス向上の取組み~

看護部主任 荒槇 大子氏

所在地 茨城県久慈郡大子町
病床数 17床
主たる医療機能 回復期
職員数 43人(医師2人、看護師14人、看護補助者6人)

インタビュー記事


看護部主任 荒槇 大子氏

吉成医院は茨城県久慈郡、人口17,000人ほどの町の中心部にあり、「地域住民の健康支援を旨とする」を理念とし、入院設備を有した病棟を完備するとともに在宅医療も展開している地域密着型の有床診療所である。また、充実したリハビリ施設を活用し怪我や事故に遭われた方々の早期回復を手助けしている。

そのような病院で行われたワーク・ライフ・バランス向上の取組みについて、キーマンとなった看護部主任の荒槇大子(あらまきひろこ)氏に話を聞いた。

-ワーク・ライフ・バランス向上に取組むことになったきっかけを教えてください

荒槇 2013年に入院病棟が完成し、有床診療所となったことで職員が倍増したことである。それまでの家族的経営で許されていた暗黙の了解がまかり通らなくなってしまった。事業の拡大と人員の増大に伴って、それぞれの職種(医師、看護師、理学療法士、放射線技師等)で持っていた常識が衝突するようになり、険悪なムードが生まれてしまった。
たとえば、入院病棟の看護師は注射や検温などの様々な処置があるから、決まった時間にリハビリをやってもらいたいという本音があったが、リハビリテーション科(以下、リハ科)の担当者は外来病棟と入院病棟で時間を調整してから入院病棟へ来ているから、入院病棟の患者さんに毎日同じ時間にリハビリができない。物理的に無理なことにも関わらず、「入院病棟の看護師さんがリハビリをやればいいんじゃない」というような声もあがるくらい、けなし合いが始まってしまった。これをきっかけに、各職種の連携について問題提起をすることで、職員全員の風通しが良くなることを期待した。

-取組みの流れを教えてください

荒槇 各職種(看護部2名、医事課、リハビリテーション科、放射線技師)の管理職と事務長が集まり、ワーク・ライフ・バランス委員会を立ち上げた。しかし、「ワーク・ライフ・バランス」という言葉すらわからない状況のため、まずは茨城県看護協会から資料を取り寄せた。
資料を読んで「ワーク・ライフ・バランスは、1つのことが解決すれば良いわけでなく、同時に何個もの課題が出てきたものを、いっぺんにはできないが、とりあえず何かをすることで、少しずつ改善するものだ」ということを学んだ。そこで看護協会が実施している「医療従事者のワーク・ライフ・バランス インデックス調査」を実施し、勤務環境の実態把握を行おうと考えた。しかし、「調査項目を読むだけでも嫌」「年齢と男女を記載すると職員数が少ないから特定されてしまう」という声も聞かれ、院内の職員は誰も読まないといった状態となってしまい、とりあえずお願いという形で行った。また、取り急ぎ看護職のワーク・ライフ・バランス インデックス調査ということで話をいただいたが、小規模な病院なので、全員一丸となって取組まなければ院長の掲げるチームとしての役割が果たせないと考え、看護職だけでなく全職員に対して実施した。

-インデックス調査を行った後の成果を教えてください

荒槇 インデックス調査で、就業規則や制度が周知されていないことや、サービス残業を改善する必要性が明らかになった。就業規則の周知についてはお手製のルールブックを作成した。また、サービス残業については、残業となる業務の洗い出しを行った。その結果、看護部やリハ科では事務作業で残業している職員が多いことが判明した。パソコンが得意な人が多い医事課へ業務を移し、業務量が増えた医事課は事務職員を1人増やして対応した。併せて、各職種の管理職自ら職員が早く帰りづらい雰囲気をなくすように努め、結果として、サービス残業だけでなく、超過勤務の時間も減らすことにつながった。
さらにインデックス調査を進めていく中、各職種の管理職間でお互いの職種についての理解がなされ始め、スタッフがこぼした他職種の愚痴に対して管理職がちゃんと説明することができ、スタッフレベルでの相互理解が始まったと感じた。

-それぞれの職種の理解は順調に進んだのですか

荒槇 最初はもちろん、「言った、言わない」のような行き違いはあった。そのようなことをなくすために、この取組みを始める同時期に、入院病棟で週1回、金曜日の朝にカンファレンスを定期的に開催するようにした。代わり映えのないこともあるが、看護部とリハ科で意見のすり合わせが行えるようになった。また、以前は看護部間であっても入院病棟と外来病棟のリリーフの相談すらできなかったが、外来病棟の看護師が「手伝ってもらえるか」と声を掛けると「いいよ、行くよ」という対応も円滑にできるようになった。
このように「同じ患者さんを見る目線」や「お互いを尊重する意識」が芽生えるきっかけとなった。
さらに、専門職の意見を出し合う場を設定し、患者の状態について情報共有を図ることとした。この事でお互いの仕事を認めるという意識の醸成に繋がり、職種間の風通しがよくなる事に繋がった。

-院内の変化を教えてください

荒槇 2017年10月に最初のインデックス調査を行ってから委員会メンバーが月1回集まって会議を開催している。次の会議までに各職種の中での「困りごと」を吸い上げてもらうようにしている。自分自身は看護部の朝礼の際、業務連絡以外でスタッフとのコミュニケーションを心がけており、些細なこと(例えば腰が痛いとか、蛇口がおかしいとか)でも吸い上げるようにしている。

-ハラスメントについても取組んでいると聞いたのですが・・・

荒槇 ある時、院内で職員同士のつまらないすれ違いから暴力事件が発生した。その際、ハラスメントの相談窓口が無いという新たな問題が表出してしまい、ワーク・ライフ・バランス委員会の下部組織としてハラスメント対策委員会を設置した。ワーク・ライフ・バランス委員会は管理職で構成しているが、威圧感で議論が妨げられるのを懸念して、ハラスメント対策委員会は若手で構成することにした。暴力事件に対しては、ハラスメント対策委員会として、暴力事件の当事者への処分は根拠を明確した上で院内に周知した。また、ハラスメントについて全職員対象の研修会を行うとともに、アンケートを実施し「これってハラスメントじゃないの?」という意見を吸い上げ、院内に「ザウルス通信」として周知している。

-事務長と院長の役割を教えてください

荒槇 事務長には、ワーク・ライフ・バランス委員会に出席し、各職種から出てきた意見やアンケート等を集約し、院長にしっかりと伝えるパイプ役を担ってもらっている。先の暴力事件当事者への処分の際も、ワーク・ライフ・バランス委員会、およびハラスメント委員会として曖昧にしないと決めた以上、しっかり処分してもらうことを事務長から院長に伝えてもらった。

-今後の課題を教えてください

荒槇 この一年間で急ピッチにワーク・ライフ・バランス向上に取組んで来たが、その取組み自体についての意見を吸い上げることがなかった。また、院長が掲げる病院のビジョンに対して、職員一人ひとりが、自身を成長させるための課題を自分たちで持てるようなキャリアプランの仕組みづくりに取組んでいきたいと考えている。

関連資料

日本看護協会「看護職のワーク・ライフ・バランス(WLB)インデックス調査」
https://www.nurse.or.jp/wlb/wlbindex/index.php