医療機関インタビュー

岩国市医療センター医師会病院
~医療勤務環境改善支援センターを利用した勤務環境改善の取組~

病院長  茶川 治樹氏
総務課長 津川 智一氏

所在地 山口県岩国市
病床数 184床
主たる医療機能 回復期機能
職員数 305人(医師10人、看護師176人、看護補助者29人)

インタビュー記事


(左)総務課長 津川 智一氏 (右)病院長 茶川 治樹氏

岩国市医療センター医師会病院は山口県岩国市に位置し、充実したリハビリ体制を有し、入院希望患者も多く地域医療の充実に貢献している医療機関で「地域医療支援病院」にも認可されている。

そのような病院で行われた医療勤務環境の改善について茶川病院長と津川総務課長に話を聞いた。

-取組みのきっかけを教えてください

津川 院長が当院に来て13年になるが、就任当時は医師が最大21名いて、ベッド数も急性期150・回復期50の計200床あるうち180床が稼働する状態だった。その後、医師の派遣元の事情もあり、なかなか医師を派遣してもらえず、21名いた医師の数が10名くらいにまで減ってしまった。また経営も厳しく、職員もそれがわかっているので意気も揚がらないという状況で「医師が少ない中でもたくさんの入院患者に来ていただき、職員もイキイキと仕事ができる職場にしたい」という思いからスタートしたといえる。

-取組みの流れを教えてください

津川 山口県の勤務環境改善支援センター担当者から「勤務環境のチェックリストがあるので勤務環境改善に一緒に取組んでいきませんか」と提案を受けたがスタートとなった。今回の調査では、あえて「病院では開封せず、勤務環境改善支援センターで回収・開封・集計します」ということを伝えたところ、全職員の72%から回答があり、通常院内で行う調査などと比較すると高い回収率となった。また、別途独自アンケートを実施し、出勤簿や残業の申請内容と実際の勤務時間に差がないか、また部署ごとでの差がないかという点を調べた。また、超過勤務状況とともに、年休取得状況のバラつき、更に個人や部署ごとで休暇などを申請できない事情についても把握できた。

-チェックリストの結果と成果を教えてください

津川 チェックリストで一番多かった不満で、当事者としてショックだったのが、「医師が減っているのに経営管理部門が医師の確保や減少を食い止める事に積極的でない」と職員に思われていたということだった。当然、実際には色々やっていたのだが、職員の目にはそう映っていたのかと驚いた。
他にも、業務を軽減する努力をしていない、経営方針などについて職員に改善内容を聞いてくれないなどの意見があり、職員の方が環境の改善に対して真面目というか積極的な意識を持っていると感じた。

○求人・採用の改善

茶川 求人に積極的でないという意見があったので、今年度は求人活動を特に積極的に行った。ハローワークが開催している、1ヶ月前から予約が必要なマッチング・面談会に看護部長と2人でいって、こんな職種があると説明し見学に来ませんかと勧誘した。この面談会で高齢者や障害者の方も含めて採用させていただき、看護補助者として看護師の業務分担を担ってもらっている。

津川 また、採用担当だけでなく院長自身が理学療法士の学校などに出向いたことで、来年4月の求人枠は例年になく早く埋まり、看護師や理学療法士、セラピストさんたちも確保できた。
医師も最低9人まで減ってしまったが、1名常勤を増やすことができた。整形外科中心の病院なので、その方面の医師確保をここ1〜2年内を目処に打診している。

○残業量について

茶川 医師の数が少ないため年休の取得率が低く、同様に薬剤師も常に求人をかけている状況で、やはり年休の取得率が低い。また、残業についても申請しづらいという風潮があったので、対策の第一歩として年休の取得率や超過勤務時間について部署ごとに毎月会議で議題に出していくようにした。それまで調査はしても公表まではしていなかったので、ちゃんと調べているという事を職員に周知するようにした。こうすることで、今月は患者数が多くて忙しかったけれど前の月より残業が抑えられたな、というように職員も稼働を意識しているということを肌で感じるようになった。

○パワハラ・セクハラの窓口について

茶川 チェックリストでパワハラ・セクハラなどの窓口が曖昧であるという項目があったので、院内の何箇所かに意見箱を用意し、匿名で投書できるようにした。さらに当院の職員であれば匿名でカウンセリングルームに連絡して、無料で利用できることを周知している。
意見箱には毎月2~3件の不満が投書されている。職員代表が話し合って、フィードバックできる部署がわかれば個人が特定されないように指示をおこない、フィードバック先がわからない意見についても「こういう意見が出ています」という事を、月に一回発行する全職員向けの「安全衛生だより」に掲載して、意見箱に対して無視しているわけではない、必ず返事なり対応するという姿勢を見せている。

○経営会議の参加者を変更(経営の見える化)

茶川 今までの経営会議は医局会の延長線上にあったので、診療部門と院長・副院長・看護部長・事務長が参加して行なってきたが、各病棟の師長さんや理学療法士のトップの方にも入ってもらうようにして、普段話し合っている経営会議を現場の人にも聞いてもらうことができるようにした。
これは、どの病棟でどのくらい売上があるといった月々の経営状況を現場にも把握してもらいたいということと、経営だけでなく職場環境も含めて改善すべき点を現場の視点から出してほしいという2つの目的で参加してもらうことにした。
例えば、病棟別に稼働状況などの報告を行うとき、これはこういう理由があったからこうなっているという事を話してもらえる。今までは稼働状況について机上の空論ではないがなんとなく話していたのが、現場の声を聞く事で、それで売上が上がったのか、または落ちたのかという因果関係がわかりやすく、会議がスピーディに進むようになった。また、経営面について意識統一をはかり、病床の稼働状況などを理解した上で取り組むということができるようになった。
最初は経営状態なんてなぜ知りたいのかがわからなかったが、一般職員にまで経営状況をオープンにした事で、色々な協力が得られるようになった。目標も知らせないまま、ああしろこうしろといっても不満が生まれるが、経営状況や方針を知ってもらった上だと、こういう目標のためにやっているのだ、これをしないとああならないのかという理解が生まれ、意識が変わってきているのを感じる。

津川 院長は経営会議および、安全衛生委員会にも参加して状況の把握につとめている。例えば弁当の注文などどこまで私用電話と考えるかといった意見があったが、そういう話も安全衛生委員会で議題にして、こういう場合なら電話を使ってもいいという基準を周知した。こうした細かい意見にも院長が応える事で小さな不満の解消につながっていると思う。

-今後の課題を教えてください

茶川 勤務環境の改善について色々と取組んできたが、まだ部署間の差や所属長の差、現場の風土の違いなどがあるのが現状である。病院全体が生き生きと働きやすいようになる為に今後も改善を進めていきたいと思っている。やはり職員が元気に楽しく働けることは大切で、よりよい職場づくりができることで患者さんが喜んで来てくれる病院へとつながると思う。患者のために職員たちは苦労しろということではないだろうと感じている。