医療機関インタビュー

たんぽぽクリニック
~24時間365日対応の体制でドクターがON・OFFを明確に線引きできる労働環境の実現と、職員全員が患者の情報を共有し同じ方向を向いて在宅医療に取り組む組織の構築~

専務理事 木原 信吾氏
理事 永井 直美氏

所在地 愛媛県松山市
病床数 16床
主たる医療機能 ー(有償診療所)
職員数 100人(医師12人、看護職21人、医師事務作業補助者1人、看護補助者3人)

インタビュー記事

 医療法人 ゆうの森たんぽぽクリニックは愛媛県松山市にあり、在宅療養に特化し地域に必要な医療を幅広く担っている。その法人理念は下記の通りである。
●患者様がご自宅で、安心して療養生活を送れるよう、24時間365日の対応を行う。
●患者様がそれぞれの療養環境・生活環境で、思い思いの生活を送れるようにバックアップする。
●地域の様々な社会資源と連携して、利用者の立場に立った在宅医療・在宅介護を提供する。
 理事長・院長である永井康徳氏が取り組んだ、医療勤務環境改善の取組みについて、木原信吾専務理事、永井直美理事、に話を聞いた。

○医療勤務環境改善に着手したきっかけを教えてください

 開業して5、6年くらいの間は、在宅医療に特化したクリニックが全国でもほとんどなく、組織のしくみづくりなどをする必要もあり8時9時まで残業しながらやってきた。
 診療スタイルを模索するなか、ある時女性職員が妊娠、出産のため休暇を取ることになり、一年後に休んでいた職員が戻ってくると、今度はその職員が定時(5時半)までに仕事を終わらせて帰らなければならず、生産性を上げざるをえない状況に変わってしまった。
 それをきっかけにクリニックの診療スタイルから職員の勤務環境に渡るまで様々な取り組みを行ってきた。みんなが子育てしている人たちを支えていこうという雰囲気ができ、今のような働き方に変わるきっかけになったのではないかと思う。

○取り組みの経緯を教えてください

 休職中の職員が赤ちゃんを連れて来てくれたので、ランチをしながらいろいろな話を聞き、妊娠・子育てから復職しやすい勤務環境、さらに介護による休暇取得などお互いを支え合いながら休める体制を作っていかなければならないことを実感した。
 今後さらに増えていくであろう在宅医療のさきがけとして他にやっているところがない状況だったので、組織全体が社会に必要とされる組織であるという自負もあり、規模を拡大しつつ職員のニーズに応える方向でやってきた。

○具体的にどのような取り組みを行ったのですか

 原則、主治医制をとっているが、常勤医師で全患者を対象とする夜間休日対応を行うためには、日頃の治療方針の統一と、しっかりとした情報共有により、連携の取れたグループとして診療にあたっていくことが重要である。患者からの連絡はまず看護師が受けている。
 医師は24時間365日対応を謳っているので、夜間・休日はその日の当番の常勤医師がすべて担うというスタイルで対応している。現在常勤の医師は9名、非常勤が3名という体制で、僻地と診療所の2拠点で対応している。9名の医師が当番を決めて、当番の日は24時間体制で勤務し、呼び出されれば訪問するという体制だが、オフの日は何も入らないようにしている。
 診療スケジュールは事務担当者2名が場所・ルート含めすべて把握・作成している。当院では事務でできることはすべて事務が、ナースにはナースしかできないことをやらせるというポリシーができていった。
 在宅医療に医師とナースが出てしまうと事務しか残っていない状態になるので、できるだけ同じところに集まって仕事をするようにして、情報を共有できるようにしている。

-情報共有にはICTツールを活用

 情報共有にはICTツールを使っている。内容については項目が決まっており、新規の患者についても冗長に書くことを禁止し、情報は箇条書きで簡潔に、一見すれば概況を知ることができるように記載する決まりである。情報共有についてはシステム化されているため、ミーティングでは患者情報よりも考え方や対応の方針、どのようなスタンスで関わるかといった姿勢を共有することを大事にしている。

-在宅医療テストの実施

 組織内で在宅医療の制度やしくみなどのテストを作って年1回行っており、今は全国テストとして無料で提供している。事務や調理師もこのテストを受けることで、医師やナースがなにをやっているのかがわかり、共通言語がうまれ、職種間のハードルが下げる効果が出ている。
 また、自分たちの仕事を振り返り、それを管理する者が状況を把握していくために、全職員面談という自己評価制度を行なっている。年に1回課題や問題を汲み取ることで、今後なにをどう変えていくかといった話をする場としている。
 開業当初から患者のために訪問し患者に感謝されることでモチベーションが上がるという理念のもとで働いており、医師はもちろんナースや職員などもその理念に共感して入ってきている。職員採用時の条件のひとつは「患者のところに行ってちゃんと挨拶ができる」人である。

-朝ミーティングで全職員が患者情報を共有

 ゆるやかな主治医制度ではあるが、24時間365日順番で当番をすることで全ての患者さんを診ており、電子カルテなどICTを利用して情報共有しているため、事務職員にも情報が入っており、誰でも意見を言えるような環境になっている。
 その為に朝のミーティングが重要な役割を果たしている。調理師や事務など含め全職員が集まり、直接関係ない患者の情報も交換しており、今日は誰の担当かということを確認し、状況が変わった人や他職種に関わる人、見取りを希望する人などの報告や状況確認を行う。また、話題を絞らず職員が1分間スピーチすることによりそれぞれの職員の理解を深めている。ミーティングは全職員参加30分、そのあと医師とナースがミーティングを持っている。金曜日のミーティングの前には理事長の理念をまとめた「ココロがめざすところへ」という小冊子を朗読して皆でまとまっていく意思統一を図っている。
 事務職員はケアマネジャーや連携士や病院の窓口などに定期的に営業活動をしている。仕事を取るのでなく顔を繋いでおくことでトラブルを回避したり意思疎通したりしやすい関係をつくり、ハードルを下げるような役割をしている。
 その事務職員とは別に「なんでも相談窓口」を設けており、ワーカー3人ナース3人がそれらを含めたすべての問い合わせに対応している。
 理事長の強い思いがあって夜間電話があったら必ず「往診にいきましょうか?」と聞くのをルールにしている。 患者からの連絡はまず看護師が受け、必要に応じてその日の当番医師につなぐようにしている。従って当番以外の医師に連絡が入ることはない。

○どのような結果成果が得られましたか

 ONとOFFが明確に線引きされているため、医師は夏には1週間から10日程度のまとまった休暇を取得できるなど長期休暇は取りやすい状態である。医師はほぼ定時で帰ることができ、残っているのも個人的に調べ物をするなどの理由がほとんどである。
 ナース・職員についても休みが取れないと定着しないので2週間程度の夏季休暇があり、長期休暇をとる者もいれば、育児等の都合により細かくとる者もいる。
 医師のリクルーティングについては常に10人前後の体制を維持していくのは難しいが、試行錯誤をしながらさまざまな取り組みをして、それをオープンにして共感してもらうことで集まってくれている。
 医師にしても看護師にしても必要以上に無理をさせる体制にしないようにしつつも最低限必要な人数を確保するという体制を組んでいる。そのためにコストはかかるが、24時間対応をはじめ、有床診療所を開設し重度の患者の受け入れをしたり、他病院からの紹介や受け入れも増えたりすることで、地域でオンリーワンの存在になっている。

○今後の展望および他の病院にメッセージをお願いします

 さまざまな取り組みを行っているが、情報共有というシステムより、そこから考え方を整え、組織内で同じ仲間として同じ方向を向いてやろうという意識がいちばん大切だろうと思う。
 当初は紙カルテでの情報のみで、職員が集金にいってもその患者がどんな人かわからず天気の話しかできないような状態であった。電子カルテや情報共有システムでICT化することでその患者のことを深く理解し、事務他全職員が組織の一員である、という意識につながっている。
 朝のミーティングも同じで、職種に関わらず皆が参加することで一人一人が組織の一員であるという意識を持ち、情報を共有するで、同じ方向を向いてゆくことで在宅医療のエキスパートとして結束してゆくことができている。
 研修医などがくると「今まで大学などで病気ばかり見てきたが、ここにきて初めて人を見るようになった」といわれるがまさにそれが狙いであり、本質的で必要なことと思っている。
 在宅医療のフロントランナーとして、その進展に寄与すべく、在宅医療の普及と質の向上を目指す様々な取り組みやチャレンジも行っていきたいと考えている。