医療機関インタビュー
岡波総合病院 ~看護師のワーク・ライフ・バランス向上の取組み~
医事課主任 溜井 智宏氏
所在地 | 三重県伊賀市 |
病床数 | 335床 |
主たる医療機能 | 急性期 |
職員数 | 555人(医師37人、看護師210人、看護補助者76人) |
インタビュー記事
岡波総合病院は三重県伊賀市に位置し、「地域医療支援病院」にも認可されている地域医療の中核を担う病院として幅広い医療を展開している。
そのような病院で行われたワーク・ライフ・バランス向上の取組みについて話を聞いた。
※回答を集約しているため、ご発言者の表記は省略しています。
-看護師のワーク・ライフ・バランス向上に取組むことになったきっかけを教えてください
きっかけとしては、京阪地域と東海地域の間に位置するという地域柄、医師や看護師が集まりづらく、看護師としては隣接した看護学校を有し、そこからの就職がほとんどという状況で人事課と一緒に求人フェアなどに出て活動したが中々人が集まらず、そうであれば今いる看護師を大切にした方がよいという考えに至ったことがきっかけであった。
-取り組みの流れを教えてください
日本看護協会が進めているワーク・ライフ・バランス推進事業を三重県の事業として実施する際に当院も参加することを当時の看護部長が決めてスタートした。 グループメンバーとしては、師長・主任・副主任・事務人事のトップ・看護部長に加えて、ママさん看護師や男性看護師の中からも選び、広範なメンバーを選抜した。 進め方については日本看護協会のやり方に従って「看護職のワーク・ライフ・バランス インデックス調査」を実施した。また、「看護職のワーク・ライフ・バランス推進ワークショップ」にも参加し、グループワークの中で何を目的に改善を進めるかを検討して、「時間と心にゆとりをもって長く働き続けられる暖かい職場」をテーマとして取り組んでいくことを決めた。
-取組みの結果と成果を教えてください
○休日の増加について
有給休暇を取れる人と取れない人がいるという状況を改善するため、有給を強制的にとるよう働きかけていたが、そこから進めて年休が112日だったのを120日に拡大することにした。経営部門からは本当にそれで現場を回せるのかという懸念はあったが、もともと有給がある程度取れていた人はさらに休みが増えたというわけではなく、それまで有給が取れていなかった人も休める状況に変わってきた。また、子供がいる看護師はいざという時に休みをとれるよう連続休暇はとりたくないが、若い人やプラチナ世代の方はリフレッシュの為に連続休暇をとりたいというニーズもあり、看護協会からの指導のもと計画を立てて2年かけて整備した。具体的には各自がどれだけ休みを取れているか明示化するために表を作って、年間の表を詰め所にはり出すことで、「あなた休みを取ってないけど大丈夫?」と声がけをしたり、休みが重ならないように調整することができるようになり不公平感も減ってきた。
○時間単位の有給という新たな取り組みについて
ワーク・ライフ・バランスのワークショップの中で子供の病院の受診や学校の事情などで1~2時間時短勤務したいという意見があり、時間単位での有給を取れるようにした。これは大ヒットで、看護職だけでなく他の部門でも非常にありがたいと評判がよかった。
○情報発信と情報共有について
ワークショップで、情報の周知の為の取り組みをされている病院があり、これにならって「知ってだーこ(方言で「知ってください」の意)通信」という院内通信を出すことで、インデックス調査の結果などを公表するようにした。院長・副院長からコメディカルなど事務の部門にも配布しており、診療報酬で医師やコメディカルの環境改善も言われてきたので、その先例的なところもあり反響が大きかった。さらに、「知ってだーこ通信」とは別に看護部通信も出し始めて各種制度の周知や、アンケート結果、異動・産休等の情報、学会発表等、様々な情報を共有する役割を担っている。情報発信、情報共有が進んだ事で、今まであまりコミュニケーションを取ることがなかった事務の人もワーク・ライフ・バランスグループのメンバーに参加してくれたので、相互理解を得られるようになったというメリットも大きかった。 また、今まで知り得なかった他病院の状況や自分のところとの比較などもできるようになり、他の病院と比べ勤務環境が比較的良いという状況が多くの職員にわかるようになった。 元々、割とアットホームな病院であったが気安く話できる敷居の低い環境・風土が醸成でしてきているのはよかったと思う。
-三重県の「女性に働きやすい医療機関」に認証されたと伺いました
就業規則と照らし合わせて評価されるのだが、保育所がある・学童保育があるという点と、ワーク・ライフ・バランスの取組みを通じて、不満や希望があれば話を聞いて、サポートやフォローをするような環境ができていたことも評価されたようである。
-その後の取り組みを教えてください
今は看護協会のワークショップは終わったが、それで活動を終わりとはしたくなく、メンバーが続けていきたいということなので継続して月1回会議を開催している。 進め方としてはKJ法のように課題を付箋で張り出して分類し目標を立て、周知の担当や時間短縮担当など目標ごとに応じてグループに分かれ、委員長が各グループの進捗を確認するといったやり方である。例えば、育休中にも看護部通信などを届けたり、「早く帰ってきてね。」といった手紙を定期的に出したり、出産おめでとうカードを出したり、復帰前には面談したりと疎外感を感じないような取組みを行なっている。 また、新しい取り組みとしてはお昼に集まって、午後残っている業務を出し合い、一部に負担が偏らないよう振り分けるという取り組み。他にも患者が入院した時や転倒した時等の記録を作成するのに時間がかかっていたため、記録のテンプレートを作成し、時間外の作業を減らしたり、電子カルテに『テンプレート入力キャンペーン中』などと表示して周知を行い、非常勤の医師や昼勤、夜勤との引き継ぎの際に役立ててもらう取組みを実施している。
-今後の課題を教えてください
ワーク・ライフ・バランスや「働きやすい医療機関」の認証を受ける中で、どうやったらみんなで働きやすい環境を作っていけるかという方法を学ぶことができた。黙っているだけでなく現状把握をして何を変えていけばいいか、アットホームな雰囲気は維持しながら積極的に提案していけるような風土を大切にしていきたい。 これから取り組もうとしていることとしては、医師の勤務環境改善にはもっと力を入れていかなければならないだろう。看護師の勤務環境改善の影響もあって医師の環境もよくなってはきていると思う。特に女性の先生については、数は少ないが、産休を取れて託児所を使ったり育児短時間勤務を取ってもらったりと、ある程度の対応できている。 しかし、部門によっては特に医師が少ないからと、簡単に増やすわけにもいかないし、インターバルをとることが難しい時もある。そういう状況でも改善できる方策や事例などを知って、本格的に取り組んでいきたい。
関連資料
三重県「女性が働きやすい医療機関認証制度」 http://www.mie.med.or.jp/kinmushien/system/index.html
岡波総合病院は「女性が働きやすい医療機関」の平成27年度認証医療機関で、平成30年度末が認証有効期間でした。 再認証申請・審査の結果、再認証が認められることとなり、平成31年3月19日の認証式で三重県知事から松島看護部長に認証書が交付されました。