医療機関インタビュー

旭川赤十字病院 ~タスクシフトによる医師の負担減と病院全体の業務効率化~

院長 牧野 憲一氏

所在地 北海道旭川市
病床数 480床
主たる医療機能 急性期機能
職員数 1124人(医師134人、看護師607人、医療技術職152名、事務職等231名)

インタビュー記事


院長 牧野 憲一氏

 旭川赤十字病院は創立100年余の歴史を持ち、北海道内初の救命救急センターに指定され、道北ドクターヘリの基地病院として道北の救急医療を担ってきた。また、地域医療支援病院にも認定されており、地域の医療機関と協力し、紹介患者や救急患者の外来診療と急性期の入院治療を専門に高度急性期病院としての役割も担っている。
 そんな、旭川赤十字病院で行われた医師のタスクシフト及び、病院全体での業務効率化の取組みについて牧野 憲一院長にお話を伺った。

-医師のタスクシフトに取組むきっかけは?

牧野 そもそも北海道というのは、ほかの地域に比べて医師の数が少ないのです。関東圏、特に東京は100床当たりに大体は40人以上、少なくとも30人以上はいます。それに対して、北海道というのは大体30人以下です。他の地域と比べて特に東北、北海道は顕著です。
 つまり、今は少ない医師が頑張って働いているわけです。当然勤務時間も増えてきます。医師の働き方改革が始まると、今まで提供できていた医療が提供できなくなるということが起きるわけです。我々が取組んできた事というのは、この少ない医師をいかに有効に使ってポテンシャルを上げていくか、病院全体としての活動を高めていくか。そのためには、タスクシフトが医師の働き方改革以前の問題として必要だったわけです。

-取組みについて教えてください。

○医師の意識改革

牧野 医師達のモチベーションは非常に高いです。自分が仕事をしないとこの地区の医療が成り立たない、みんなそういう想いがあるので救急もほとんど断ることなく受け付けますし、何時間でも患者がいる限りは治療するわけです。医師の勤務時間を調べてみると、通常の36協定ではオーバーしてしまうということもわかったので、ここはもう意識改革しかないなと思いました。どの科の医師はどれくらいの超過勤務をしていますということを医師に朝の会議等で情報公開しました。ただし、救急の患者に関しては幾ら診療してもそれは文句を言えないし、むしろ一生懸命診察して下さいと。ただ、自分でコントロールできる業務は時間内におさまるようにコントロールしてください、と意識付けを始めました。
 例えば定期的な回診や患者さんや家族への説明、看護師への指示出しも全部時間内に済ますように、検査も時間内に終わるように予定して下さいというように意識付けしました。また、病院全体としての取組みとして会議や研修を極力時間内におさめるようしました。医師がかかわる会議というのは、ほぼ100%に近く時間外に組んでいたのでその発想をやめました。

○医師業務のタスクシフト

(1)医師事務作業補助者の活用

牧野 少ない医師がよりたくさんの仕事をこなすためにサポート役をたくさん配置するところから始めました。
 事務的なことに関しては医師事務作業補助者になります。カルテ等様々な記録を医師にかわって、医師事務作業補助者が電子カルテ入力を行います。しかし、具体的に何を書くかをメモしてくれるのは実は看護師なのです。例えば医師が口頭で何か指示を出した場合、指示を書きとめるのは看護師です。看護師は作業自体を自分で実施するわけですけれども、指示の部分がそのままでは残らないのです。ですから、そういったメモを残しておいて、それを医師事務作業補助者が指示として記録していく。そういった一連の流れを作りました。

(2)看護師の活用

牧野 看護師の業務範囲の見直しということで、例えば点滴注射は大学病院では全部医師の仕事になります。ですが、この病院ではそういった業務は昔から看護師が行っています。法的に看護師がやることが許されている部分は、全て看護師が行います。

(3)技師の活用

牧野 例えば超音波検査。これは放射線技師でも臨床検査技師でも資格を取ればできるわけです。ですから、当院ではそういった業務は技師がする。例えば脳卒中の患者が運ばれてきて病棟で頸動脈の超音波検査をする場合、医師が指示を出せば、技師が行う。医師が自分でエコーの機械を抱えて行く必要は無くなります。また、人工呼吸器のセッティングや管理、これは臨床工学技士が行います。

◯看護師業務のスリム化

(1)「重症度、医療・看護必要度Ⅱ」の導入

牧野 看護師の仕事が増えたので、看護師業務のスリム化にも取組みました。
 まず取組んだのは、入院料の算定の為に必要な「重症度、医療・看護必要度」の該当患者割合を出す作業です。平成30年診療報酬改定で、重症度、医療・看護必要度の判定基準の見直しとして新たに登場したのが「重症度、医療・看護必要度Ⅱ」というタイプです。患者の「重症度・看護必要度」の評価をA、B、C項目にわけて看護師が3つの項目を全てチェックし、点数を積算して該当患者割合を算出するのが従来の「重症度、医療・看護必要度Ⅰ」です。
 A項目というのは、検査・処置の項目で、例えば、点滴を3本入れるとか、輸血する等です。B項目は患者さんの日常生活動作についての項目(寝がえりや食事摂取等)なのでこれは看護師でないと把握できません。C項目は手術に関する項目です。
 A、C項目を実際の診療データに置きかえるというのが必要度Ⅱです。A、C項目については医師や手術室のスタッフに確認しなければ分からないこともあるので手間がかかります。ここを診療データに置きかえるだけで看護師の業務量はかなり減りました。

(2)不要な看護記録の削減

牧野 何を記録するかというのは、病院によってかなり差異があります。当院ではかなり詳細に記録をつけていました。そこで、省略できるものは全て省略することにしました。例えば看護サマリーです。これは確かに再入院してくる患者さんや、病院を移る患者さんなどが、入院中にどんな状態だったのかという看護的な観点からの情報が必要な場合には役立ちますが、当院では亡くなった患者さんまで全部記録していました。それは廃止しました。他にもやめていいものを洗い出し、廃止にしました。
 また、クリニカルパスについてもそのパスどおりに進んでいるということは、大きなイベントがないということですから、長い文章記録はやめてチェックリスト方式の記録に置き換えました。不要なものは削除する、削減できるところは削減するということをしているわけです。
 さらに、日勤、準夜、深夜の勤務交代時の引き継ぎを基本的になくしました。必要な患者だけはするけれども、状態の変わっていない患者とかは記録を見て判断するということで、引き継ぎのために30分、1時間の時間をとるということはしなくなったのです。

-取組みの成果は?

牧野 医師増員もあり、医師⼀⼈当たりの時間外労働は、2017年度は⽉43.1時間でしたが、2018年度は⽉40.7時間に減少しました。また、80時間以上の医師の数は変わりませんが、50〜70時間以上の医師が減り、その下の層の医師が増えました。
 看護師の業務改善も行ったのですが、これにより時間外勤務が減ったわけではありません。当院では新入院患者数が毎年増えていますが、それに合わせて病棟の看護師を増やすことは出来ません。患者が増えても業務の見直し・効率化を行うことで対応できるようにしたのです。

-今後の課題は?

○RPAの導入

牧野 今年取組んでいるのがRPAという技術です。ロボティック・プロセス・オートメーションという、人間がやることをコンピューターが代行して自動化する技術です。まずは患者への病名づけから始めました。いろんな検査や診断をしたら必ず病名をつけるのですが、医師が全部きちんと入力してない病名もあり、それを医師事務作業補助者が毎月何千件か入力しています。それを全部コンピューターに入力させることにしました。
 それにより医師事務作業補助者を別な業務にタスクシフトする。これは今後様々なところへ拡大させる予定です。

○働き方改革に向けた課題

牧野 今、問題となっているのが宿日直の問題です。2024年度から義務付けられる医師の時間外労働規制に向けて、厚生労働省から通知された宿日直許可基準によると3つの条件があります。特に「特殊な措置を必要としない軽度または短時間の業務に限る」という条件がありますが、これは少数の要注意の患者や問診とか、ちょっとした診察レベルなので、夜間救急搬送された患者の処置をする場合はこの条件を満たす事ができません。そうなると日勤+時間外勤務となりますが、その場合は連続28時間勤務までしか許可されません。つまり、今までは宿日直明けも夕方まで働いてもらいましたが午後は働けません。また、連続勤務後はインターバルも開けなければいけません。
 医師が少ない中で勤務形態とインターバルをどう組み合わせれば日中の診療への影響を最小限にできるのかということをこれから1~2年で考えなくてはいけないのです。これが最大の課題です。

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