医療機関インタビュー
筑波大学附属病院 ~女性医師・看護師のキャリアアップ支援についての取組み~
所在地 | 茨城県つくば市 |
病床数 | 800床 |
主たる医療機能 | 高度急性期 |
職員数 | 2009人(医師691人、看護師832人、医療技術職367名、事務職等119名) |
インタビュー記事
瀬尾氏
筑波大学附属病院は、茨城県唯一の国立大学病院として「研究・教育・臨床」を担いながら、学術研究都市つくばを中心とした地域の拠点病院として重要な役割を果たしている。そんな筑波大附属病院で取組まれている女性医師のキャリアアップ支援について、女性医師キャリア支援コーディネーターである瀬尾医師にお話を伺った。
-女性医師・看護師のキャリアアップ支援に取組む事になったきっかけは?
瀬尾 筑波大学では、平成19年に文部科学省のグッド・プラクティス(社会的ニーズに対応した質の⾼い医療⼈養成推進プログラム)、いわゆる医療人GPに、女性医師のキャリアアップ支援システムが採択されました。そこから継続して女性医師のキャリア支援をしています。 GPに応募したきっかけとして、筑波大学は以前より女子学生の比率が高い大学だったということがあります。私が受験をしたのは1989年で、当時は他の大学では女性率が10%台という大学も多かったのですが、既に筑波は3、40%女性でした。また、子育て中の女性医師は、市中病院で外来だけ、あるいは非常勤など色々な働き方が選択できますが、その中でわざわざ大学での勤務を選ぶということは、専門医をとりたいといった希望や、今よりも技術を身に着けたいというキャリア志向、あるいはこれから先自分のキャリアを上げていきたいという人がほとんどだと思います。そういった高い能力と向上心を持つ女性医師を支援することを目指しました。
-取組みについて教えてください。
○キャリアアッププログラムについて
瀬尾 筑波大の特徴は、やはり一人ひとりのキャリアコーディネートをオーダーメードで行っているということですね。たとえば受けたい研修は人によって全く違います。3年目の先生と10数年働いている先生とでは働き方が違うし、科によっても違ってきます。さらに子供が1人なのか、2人なのか、などの家族構成によっても違ってきますし、加えて夫が何をしているかによっても違ってきます。御主人も医師であることも多いですが、医師だったら何科でどの病院で働いているのか、また実家が近いのかといったことも影響します。このようにその人その人の状況や環境に合わせてオーダーメードで研修をプログラムするというといころが最大の特徴です。 また、短時間勤務でも常勤として扱う「短時間(パートタイム)常勤」制度を導入しました。支援プログラムでは、生活に合わせて半日~30時間/週から研修が組めますが、30時間/週から保険も社会保険、年金も厚生年金になって常勤勤務と同じになるので、30時間を目安に働いている人が多いですね。新専門医制度が始まり、週32時間以上の勤務でないと、専門医がとれないという科があるようなので、今年から勤務時間を32時間/週までにして、短時間勤務でも専門医がとれるような対策をしています。これは小学校3年生までのお子さんを持つ方が支援対象になっています。
○病児保育支援システムについてについて教えてください
瀬尾 このシステムは小児科の先生に大変協力をしていただいています。おそらく大きな病院には病児保育があると思うのですが、病児保育は専用施設でなければいけない、あるいは看護師を配置しなくてはいけない、などいろいろな決まりがあって多大な予算が必要になります。また、当院で最初に病児保育をつくろうとした際に、「大学の小児科には、感染症が引き金になって亡くなったりする可能性があるほどの重症のこどもがいる。だから小児科の横に病児保育は置けない。」といった話も出てきました。このときは大変困ったのですが、病児保育室ではなくて、病児を預かることのできる部屋を病院が提供し、そこにシッターを派遣会社から派遣してもらうというアイデアをいただき、解決しました。その派遣会社とは、病院が法人契約を結んでいて、シッターさんとのやりとりは全て病院の事務の方が手続きをしてくれます。たとえば、夜中に子供が熱を出した場合、メールで連絡をすれば、担当者が部屋が空いているか空いていないか、シッターさんが確保出来るか確保出来ないか、といったことを早朝に確認してくれるので、出勤時間前に保育の可否が決定します。また、朝、病児用の部屋に子供を連れて行くと、当院の小児科医が必ず診察をしてくれるので、そこも親としてはとても安心です。そして、病児保育に預けても大丈夫かの確認のために、朝いちばんにかかりつけの小児科に連れて行かなきゃいけない、といった心配もないので、通常の勤務時間から自身の外来や手術の対応が出来ます。 元々病児保育システムの対象は、女性医師と看護師だけだったのですが、現在は医療職全体に広げて薬剤師や臨床検査技師などの職種も使えますし、男性医師も利用可能です。
-取組みの成果は?
瀬尾 当院の取組みの10年間のまとめをしたのですが、女性医師支援を受けた82%の人が、その後フルタイム勤務に戻っています。 一旦短時間勤務を経験すると、その後非常勤医になってしまうのでないかという意見もあるのですが、当院の取組みに参加する人達は非常にモチベーションが高く、しっかり仕事を続けている人が多いようです。このまとめを見て、やはりこの取組みの意味はあったと感じています。これからも積極的に継続していこうと考えています。
-今後の課題は?
瀬尾 今は女性医師の支援になっていますがこれからは男性医師も含めて、介護や御自身の病気など、様々な人の様々な事情に合わせてサポート出来ればと思っています。 また、病児保育支援システムについては、茨城県全体にこの制度を広められたらと思っていて、茨城県医師会と協力して県内の病院に働きかけを行っており、現在2病院が当院と同様の病児保育支援を実施しています。その内の1つは小児科のない病院ですが、近所の小児科クリニックの先生と協力して、病児保育を行っていらっしゃいます。 茨城県は人口10万人対の医師数が全国46位なので、筑波大学と茨城県、茨城県医師会で協力させていただきながら、こういった取組みによって医師不足の解消を側面から支援できればと思っています。